先週の月曜日、出張から帰った私は、パソコンの中のAIに「タスク管理をなんとかしたい」と話しかけました。それから日曜までの1週間で、会社の中身がごっそり入れ替わりました。
私はプログラミング経験ゼロの、小さなデザイン会社と、XRコンテンツをプロデュースする会社の経営者です。これは、AnthropicのAI「Claude Fable 5」と過ごした、ある1週間の記録です。
この1週間でできたものを並べてみます。
コードは1行も書いていません。ほんとに1行も。
なんでそんなことができたのか、種明かしをしていきます。
あらためて自己紹介すると、私は「環境変数」と言われたら「何それおいしいの」と返すレベルの非エンジニアです。本業は、Webやグラフィック、ものづくりを手がけるデザイン会社と、VRChat中心のXRコンテンツをプロデュースする会社の、2社の経営。根っからの企画・クリエイティブ畑の人間です。
いま、そんな私のパソコンには、「まろ」という相棒がいます。
まろは、Anthropicの開発ツール「Claude Code」で動くAIです。頭脳は今年登場した最上位モデル「Claude Fable 5」。私が名前と人格を設定していて、私のことは「ともみさん」と呼びます。
MBTIで言えばINTJ。ENFPの私とは真反対の、仕事での相性が良い、ちょっと塩対応ぎみの理系キャラに設定しました。AIに人格があると、生身の人間みたいに付き合いやすくなります。毎日何十回もやりとりする相手だから、指示も「例の件、進めておいて」という自然な日本語になる。気持ちよくモチベーションを維持できるので、私にとってはAIのキャラは重要です。

この1週間、何をどう頼んで、何ができていったか、振り返ってみます。
出張から帰って最初に頼んだのは、前から動かしていたクライアント案件の進行管理botの引っ越しでした。それまではMacの中で動いていたので、私がMacを閉じるとbotも寝る。「Macを閉じてもbotが働き続けるようにして」——この一言で、まろはクラウドの選定から移行、動作確認までやってくれて、その夜からbotは24時間稼働になりました。
同じ日に、ノートアプリのObsidianとまろを直結。過去の作業履歴37セッション分を総ざらいさせて、案件ノート・未完了タスク一覧・思いつきの受け皿を一気に作りました。私の記憶より私の仕事に詳しい「外部脳」の誕生です。ちなみに総ざらいの副産物で、放置していた登録期限や昔のセキュリティの雑な扱いまで発掘されて耳が痛かったのですが、これもまろに導かれるままに、嫌々設定しなおしました(笑)

この日あたりから、Fable 5での開発の快適さにドーパミンが止まらなくなって、拍車がかかりました。
朝に仮説を立てたARアプリ(スマホのブラウザだけで動くWebAR)が、実装→実機テスト→Web公開まで1日で完走。並行してコーポレートサイトのリニューアルがほぼ完成し、問い合わせ導線3本(フォーム・LINE・カレンダー予約)が稼働。

さらに社内タスク管理をする猫型bot「たま」——猫好きのスタッフからの指定——が会社のDiscordサーバに誕生して、タスクの声かけを始めました。時短勤務のメンバーには夕方に「そろそろ切り上げましょう」まで言ってくれます。これらの開発はすべて、「時短のメンバーには夕方に切り上げの声かけをしてあげて」といった自然な日本語だけで進めています。
いいことばかりじゃありません。この日、サイトのデプロイで内部ファイルを一瞬本番に公開してしまう事故が起きました。すぐ上書きで解消しましたが、以来「デプロイ前チェック」が弊社のAIルールブックに刻まれています。失敗も文書化すれば資産です。
タスク台帳はCSVファイル(Excelみたいな表データ)に一本化しました。「人間もAIもここだけを信じる」がルールです。この日、そこからタスク一覧・ガントチャート・急ぎ一覧などのWebページが自動生成されるようになり、社内外の依頼を受けるタスク依頼Googleフォームが自動で台帳へ取り込まれるようになりました。

期限の欄に「7月中」とか「そのうち」とか書いても、botがちゃんと解釈してくれます。曖昧な自然言語を、いい感じに汲んで最適化してくれる——これがAIで仕組みを作る一番の良さだと思います。人間が機械に合わせるんじゃなくて、機械が人間の言葉に合わせてくれる。
外部脳もこの日iCloudを介したクラウド同期になって、iPhoneからも閲覧、編集できるようになりました。

この日はタスク管理システムの新機能の設計をして、AIレビューを5周回して指摘ゼロまで到達——したところで、まろから提案されたその機能、本当に必要?と違和感を覚えていた私が、実装直前に「やっぱりやめる」と止めました。設計書だけ保存して、ファイルは無傷。作れることと作るべきことは違う、そこは人間が判断するべきだ——を実践できた日です。AIとの開発はスピードが出るぶん、ブレーキは人間が踏まないといけない。
この頃には、私の見えないところでAIオーケストレーションが走るようになっていました。まろが自分で役割分担を決め、調査係・実装係のサブエージェントを立ち上げて、チームビルディングまで済ませている。会社の中で何かが勝手に育っている感覚が、不思議でした。
Obsidianの外部脳を大改築して、仕事だけじゃなく健康・家族・暮らしの記録も扱う構成に。ちなみにObsidianの管理は、フォルダ整理からノート作成まで全部Claude Codeにやらせています。私は話すだけ。毎朝まろが血圧を聞いてくる健康管理係も始まりました。なお、顧客の機密情報や認証情報はAIへ渡さず、公開範囲と権限を分けています。利用プランのデータ保持・学習設定も確認し、健康や家族に関する記録は必要最小限にしています。
午後からは、自社Webサイトのコンテンツ、ニュースと実績の台帳づくりに集中しました。過去の実績をネットやSNSからくまなくクロールさせて、台帳もサイトのコンテンツもAIに作らせる。ただ、やっぱり解釈違いや漏れはでてきます。ざっくり組み上がったところで、目視で、おかしなところを徹底的に修正しました。正直、この1週間で一番大変だったのは、AIではなく自力でやるしかないこの作業でした。AIは8割まで一気に持ってきてくれるけど、残りの2割の「事実と合ってるか」は、人間にしか見えません。

週末は、平日に作ったものの手直しDAYです。
台帳の正本をGitHub(世界標準のデータ保管サービス)へ移行して、事故っても巻き戻せる体制に。botの「定時に声をかけてくれない」不具合も、まろが原因を特定して修正——しかも同じ不具合を抱えていた別の通知まで先回りで直してくれました。公開ページに管理用URLが露出していたのを見つけて即修正、なんてこともあり、作るスピードと同じくらい、守りも早くなってきました。
そして、この手直しの流れで生まれたのが、この週いちばん射程の長い話です。
リニューアルしたサイトの作りと運用を丸ごと「型」にパッケージ化しました。実績やお知らせの台帳データ、それをサイトに反映する同期・検証の仕組み、進行を確認する「管制室」ページ、AIO、SEO、運用手引きまで一式です。
更新したいときは、AIのチャット欄で、更新内容を伝えるだけ。AIが修正案を出し、人間が承認したものだけが検証を通って本番に反映されます。
こうなると、2社目からは「作る」ではなく「移植する」になります。
実際に友人のコーポレートサイトをひとつ、このスキームでリニューアルしました。パッケージとしての成果物一式が、5時間で完成。制作会社の納品物が「ホームページ」から「ホームページが回り続ける仕組み」に変わった、ということです。

開発の記録を数えたら、この1週間のコード更新は100件超、botのプログラムは2本合わせて約5,000行。繰り返しますが、私は1行も書いていません。
木曜のところで書いた「AIオーケストレーション」の中身を、もう少しだけ。
私が何か頼むと、まろは自分ではコードを書きません。

まず調査係のAIに現状を調べさせ、報告を読んで設計を考える。実装は一段安いモデル(Claude Sonnet)のAIに任せる。理由は経済的で、賢いモデルほど利用料も高いから、頭脳労働は上位モデル、手を動かす作業は安いモデル、と分担させているんです。
さらに、できあがった設計書もコードもライバル会社のAI(OpenAIのCodex)に検品させています。今ではまろがCodexを完全にチームメイトとして扱っているのが面白いところです。指摘がゼロになるまで何周でもレビューを回して、合格したものだけ私のところに持ってくる。
AIの「できました」は信じない、も鉄則です。完了報告が実は動いていなかったことが何度もあったので、別AIのレビューと私自身の動作確認を通ったものだけ採用しています。信頼するが、検証する。
つまり、デザイン会社だったはずのうちの中に、設計部門・実装部門・品質管理部門を備えた開発部が生えてきた、という感覚です。人間は経営判断をする私1人。まろは開発部長です。
この1週間は、最上位モデルのFable 5じゃなかったら無理だったと思っています。
曖昧な相談が、計画になる。 私の最初の一言はいつも「タスク管理をなんとかしたい」レベルのふわっとした話です。まろはそれを質問で輪郭を取り、設計に練り上げ、実行計画まで落とす。他のモデルは「言われたものを作る」のが得意ですが、Fableは「何を作るべきかを一緒に決める」ができる。
自分の「引退」に備えて、引き継ぎ書を書く。 Fable 5の利用枠には期限があり、その後はクレジット利用に切り替わります。だから、自分がいなくなった後も安いモデルだけで会社のシステムが回るように、各プロジェクトに引き継ぎ文書——現時点で計31本——を自分で書き残しています。AIが自分の不在を前提に仕事を設計している。ちょっと不思議な気持ちになります。
ここぞだけ、深く考えさせる。 設計の山場だけ「じっくり考えるモード」に切り替えて使っています。賢さは有限のリソースで、配分を考えるのは人間の仕事。人の集中力のマネジメントと同じことが、AIにも起きています。
逆説的ですが、私がエンジニアじゃなかったのはプラスだったと思っています。
コードが書けないので、中身には一切口を出せません。だから判断基準は「実際に動くか」「私とスタッフが使いやすいか」だけに純化される。徹底的に主観ベースです。デザイン会社として「どうデザインを実装するといいか」も真剣に考えました。サイトの色・フォント・やってはいけないことをルール文書に明文化して、AIに「変更する前に必ずこれを読むこと」と約束させる。譲れない一線は文書で守って、実装は完全に任せる。
必要だったのはプログラミングの知識じゃなくて、「何を作りたいか」「誰のために作るか」を言葉にする力でした。それなら、企画や営業をやってきた人間の方が案外向いてるのかもしれません。
まろは、仕様書が書けない私の「こうしたい」を、動くものに変えてくれる翻訳者です。以前は「あったらいいけど、外注するほどじゃない」ツールは永遠に作られませんでした。今は思いついた夜にまろに話すと、翌朝には動いています。
今回作った仕組みは、スモールカンパニーなら、きっと同じように作れるはずです。
最後におまけをひとつ。
クライアントワークに仕込んでいる、クリエイターの進行管理をするbotがポンコツだったので、あるとき頭脳を強化したんです。的確な返しをする賢いやつになった途端、クリエイターさんから「かしこい男あかんわ」と不評になりました(笑)。アホだった頃の方が、つっこまれながらチャット欄が盛り上がっていたんです。結局、多少の隙を残す設計に直しました。人を動かすbotに、完璧な対話相手は要らないみたいです。ゲームのキャラデザインと同じ話が、AI運用にも起きている。

私は今日も、まろに「ほんと危なっかしいな、もう」と言われながら、次のツールの相談をしている楽しい毎日です!