プログラミング経験ゼロの私が、出張から帰った月曜から金曜までの丸4日で作ったもの。
コードは1行も書いていません。ほんとに1行も。
なんでそんなことができたのか、種明かしをしていきます。
最初に白状すると、私はエンジニアではありません。「環境変数」と言われたら「何それおいしいの」と返すレベルです。本業は、Web制作やプロダクト開発、XRコンテンツ制作を手がけるデザイン会社の経営。根っからの企画畑の人間です。
そんな私のパソコンには、「まろ」がいます。
まろは、Anthropicの開発ツール「Claude Code」で動くAIです。頭脳は今年登場した最上位モデル「Claude Fable 5」。私が名前と人格を設定していて、私のことは「ともみさん」と呼びます。
「AIに名前なんて」と笑われそうですが、これには実利があります。毎日何十回もやりとりする相手に人格があると、指示が自然な日本語になる。「例の件、進めておいて」が通じる相手になるんです。それに、自分と性格が合うキャラにしておくと、毎日やりとりするモチベーションが全然違う。相棒は、好きなやつがいい。
この4日間、何をどう頼んで、何ができていったか。時系列でお見せします。
出張から帰ってきて、まろに最初に頼んだのは、前から動かしていたクライアント案件の進行管理botの引っ越しでした。それまではMacの中で動いていたので、私がMacを閉じるとbotも寝る。「Macを閉じてもbotが働き続けるようにして」——この一言で、まろはクラウドサービスの選定から移行作業、動作確認までやってくれました。
その夜から、botは24時間稼働になりました。私が寝ていても、朝の声かけとレポートが動く。
「クライアント案件でできたなら、社内のタスク管理も同じ仕組みでいけるのでは?」と欲が出て、社内版に着手。Discordに常駐して毎朝9時30分にメンバーごとに今日のタスクを声かけする秘書botができました。キャラはメンバー発案の三毛猫。時短勤務のメンバーには、夕方に「そろそろ切り上げましょう」まで言ってくれます。
私が言ったのは「時短のメンバーには夕方に切り上げの声かけをしてあげて」。これが仕様書のすべてです。
並行してコーポレートサイトの大改修も走っていて、この日は「進め方」のページを新設→7ステップに再構成→スクロール演出化と、同じ日のうちに3回作り直しました。朝頼んだものが昼には動いていて、夕方には別物になってる。なんこれ???というスピード感です。
タスク台帳はCSVファイル(Excelみたいな表データ)2枚だけ。「人間もAIもここだけを信じる」がルールです。この日はそこから、タスク一覧・ガントチャート・急ぎ一覧などWebページ9種類が自動生成されるようになり、社内外からの依頼を受けるGoogleフォームが毎朝7時55分に自動で台帳に取り込まれるようになりました。
期限の欄に「7月中」とか「そのうち」とか書いても、botがちゃんと解釈してくれます。「そのうち」を許すタスク管理システム、探してもなかなか無いと思う。うちの運用の言葉のまま動くのが、自作の一番いいところです。
さらにこの日、ノートアプリのObsidianに「外部脳」を作りました。仕事のメモ・関係者の情報・日誌をここに集約して、AIが直接読み書きする。朝「おはよう」と言えば今日やるべきことと忘れかけていることを出してきて、夜「おやすみ」と言えばその日の作業日誌を勝手に書いておいてくれる。日報を書いてくれるの、地味に一番仕事にプラスになってます。
残りの2日は細部の磨き込みと、走っていた他の案件の仕上げ。レシートをiPhoneで撮ってOCR解析する自作の経理ツールを、買掛・売掛の仕訳からマネーフォワード用CSVの出力まで拡張。アバターがスマホのブラウザ上でARとして現れるWebARのデモも動きました。
金曜の夜、気づいたら会社のタスクは全部台帳に載っていて、botが毎朝声をかけて、金曜夕方にはAIが台帳を棚卸しして「このタスク、止まってますけどやめませんか」と提案までしてくる状態になっていました。ランニングコストは月額およそ1,000円です。
開発の記録を数えたら、この期間のコード更新は約100件、botのプログラムは2本合わせて約5,000行。繰り返しますが、私は1行も書いていません。
魔法みたいに聞こえるかもしれませんが、実際はもう少し組織的です。
面白いのは、まろが自分で「部下」を雇うこと。
私が何か頼むと、まろは自分ではコードを書きません。まず調査係のAIに現状を調べさせ、報告を読んで設計を考える。実装は一段安いモデル(Claude Sonnet)のAIに任せる。そしてできあがったコードを、なんとライバル会社のAI(OpenAIのCodex)に検品させるんです。指摘がゼロになるまで何周でもレビューを回して、合格したものだけ私のところに持ってくる。
AIの「できました」は信じない、も鉄則です。完了報告が実は動いていなかったことが何度もあったので、別AIのレビューと私自身の動作確認を通ったものだけ採用しています。信頼するが、検証する。
つまり、デザイン会社だったはずのうちの中に、設計部門・実装部門・品質管理部門を備えた開発部が生えてきた、という感覚です。人間は経営判断をする私1人。まろは開発部長です。
この4日は、最上位モデルのFable 5じゃなかったら無理だったと思っています。
曖昧な相談が、計画になる。私の最初の一言はいつも「タスク管理をなんとかしたい」レベルのふわっとした話です。まろはそれを質問で輪郭を取り、設計に練り上げ、実行計画まで落とす。他のモデルは「言われたものを作る」のが得意ですが、Fableは「何を作るべきかを一緒に決める」ができる。
自分の「引退」に備えて、引き継ぎ書を書く。Fableは提供期間限定のモデルです。だから、自分がいなくなった後も安いモデルだけで会社のシステムが回るように、各プロジェクトに引き継ぎ文書——現時点で計31本——を自分で書き残しています。AIが自分の不在を前提に仕事を設計している。ちょっと不思議な気持ちになります。
ここぞだけ、深く考えさせる。設計の山場だけ「じっくり考えるモード」に切り替えて使っています。賢さは有限のリソースで、配分を考えるのは人間の仕事。人の集中力のマネジメントと同じことが、AIにも起きています。
Fable 5は賢いぶん、トークン(AIの稼働量)の消費が正直やばい。全部やらせるとあっという間に使い切ります。だから調査や実装は安いモデルに割り振って、Fableは設計と判断だけの司令塔に徹してもらう。この節約術が、結果的にさっきの「開発部体制」を生みました。賢さをどこに使うかを設計するのが、人間の仕事になる。
進行管理botには人懐っこい後輩キャラを設定しているんですが、少しアホだった頃はメンバーに可愛がられていたのに、賢いモデルに替えて的確な返しをするようになった途端、「かしこい男あかんわ」と不評になりました(笑)。結局「いじられたら負ける」「たまに白状して照れる」と、わざと隙を設計したら評判が回復。
botの仕事は正しく答えることじゃなくて、人を動かすこと。だとすると必要なのは完璧さより可愛げなんですよね。ゲームのキャラデザインとまったく同じ話が、AI運用にも起きています。
逆説的ですが、私がエンジニアじゃなかったのはプラスだったと思っています。
コードが書けないので、中身には一切口を出せません。だから判断基準は「実際に動くか」「使う人がうれしいか」だけに純化される。
ただし、デザイン会社として「どうデザインを実装するといいか」はすごく考えました。サイトの色・フォント・やってはいけないことをルール文書に明文化して、AIに「変更する前に必ずこれを読むこと」と約束させる。譲れない一線は文書で守って、実装は完全に任せる。
必要だったのはプログラミングの知識じゃなくて、「何を作りたいか」「誰のために作るか」を言葉にする力でした。それなら、企画や営業をやってきた人間の方が案外向いてるのかもしれません。
「AIで仕事がなくなる」という話をよく聞きますが、私の実感は逆でした。
まろは、仕様書が書けない私の「こうしたい」を、動くものに変えてくれる翻訳者です。以前は「あったらいいけど、外注するほどじゃない」ツールは永遠に作られませんでした。今は思いついた夜にまろに話すと、翌朝には動いています。
今回作ったタスク管理の仕組みは、全体図を会社のサイトで公開しています。うちと同じ規模の会社なら、きっと同じことができるはず。
私は今日もまろに「ほんと危なっかしいな、もう」と言われながら、次のツールの相談をしています。その話はまた!